題名の通りですが、オメガ3脂肪酸が遺伝子レベルで老化を抑制したよという論文が最近出ていたので紹介します。(R)
研究の背景
観察研究や小規模な試験では、ビタミンD、オメガ3脂肪酸、運動が生物学的老化を遅らせる可能性が示唆されていました。しかし、これらの効果を大規模な臨床試験で科学的に検証した研究はほとんど存在しなかったんですね。
本研究では、DO-HEALTH試験と名称で行われた大規模ランダム化比較試験のデータを用い、これらの要因が遺伝子の化学的な変化(DNAメチル化)による生物学的な老化に与える影響を調査しました。
DNAメチル化とは、遺伝子の働きを調節する仕組みの一つであり、加齢や病気のリスクと関連していることが分かっています。研究では、DNAメチル化をもとに生物学的年齢を推定する「DNAメチル化クロック(エピジェネティッククロック)」という指標を用いたとのこと。
今回の研究では、以下の4種類のDNAメチル化クロックを用いて、ビタミンD・オメガ3脂肪酸・運動の影響を検証したんですね。
1. PhenoAge:免疫機能や代謝機能などを反映する老化指標
2. GrimAge:血液中の特定のタンパク質や喫煙歴をもとにした老化指標
3. GrimAge2:グリムエイジの改良版で、寿命や加齢性疾患との関連がより強い
4. DunedinPACE:老化の進行速度を示す指標(1年でどれだけ老化が進んだかを測定)
これらのクロックを用いて、ビタミンD(2000 IU/日)、オメガ3(1 g/日)、および自宅運動プログラム(週3回30分)が、3年間にわたる生物学的老化速度に与える影響を分析したんですね。
研究の方法
DO-HEALTH試験は、70歳以上の健康な高齢者を対象とした大規模ランダム化比較試験であり、欧州5カ国(スイス、フランス、ドイツ、ポルトガル、オーストリア)で実施されました。本研究の解析対象は、もともとの2,157人の参加者のうち777人であり、彼らのDNAメチル化データが試験開始時と3年後に取得されたとのことで結構しっかりとした研究となっております。
試験デザイン
- 参加者はビタミンD、オメガ3、運動プログラムの組み合わせの異なる8つのグループにランダムに割り当てられた(プラセボ群を含む)。
- 血液検査は、開始時および1年、2年、3年目に実施され、DNAが抽出・保管された。
- データ解析では、年齢、性別、BMI(体格指数)、試験施設、転倒歴などを調整した統計モデルを用いた。
研究の結果
オメガ3は生物学的老化を遅らせる可能性がある
- オメガ3単独の介入で、以下の3つのDNAメチル化クロックにおいて老化の進行が遅くなる傾向が確認された:
- PhenoAge(老化指標の減少: -0.16)
- GrimAge2(老化指標の減少: -0.32)
- DunedinPACE(老化指標の減少: -0.17)
- これらの減少は、2.9~3.8ヶ月の生物学的年齢の遅れに相当すると推定された。
ビタミンDや運動単独では明確な効果は認められなかった
- ビタミンDや運動プログラム単独では、DNAメチル化クロックの変化に有意な影響は見られなかった。
- ただし、PhenoAgeに関しては、オメガ3と組み合わせたときに相乗効果が見られた。
3つの介入を組み合わせると、PhenoAgeにおいて加齢抑制効果が増加
- オメガ3 + ビタミンD + 運動の3つの併用では、PhenoAgeにおける老化抑制効果が最大となった(指標の減少値:-0.32)。
- これは、オメガ3単独よりも老化抑制効果が大きいことを示しており、複数の健康介入を組み合わせることの有用性を示唆している。
その他の健康効果
- 以前のDO-HEALTH試験の結果と合わせて考えると、オメガ3摂取は感染症リスクを13%低下させ、転倒リスクを10%低下させることが報告されている。
- また、3つの介入を組み合わせると、プレフレイル状態(加齢に伴う衰弱の前段階)のリスクを39%低下させ、侵襲性がんの発症リスクを61%低下させることも示唆されている。
判明したこと
- オメガ3単独の摂取で、生物学的老化をわずかに遅らせる可能性がある(特にPhenoAge、GrimAge2、DunedinPACE)。
- オメガ3、ビタミンD、運動を組み合わせることで、PhenoAgeにおける老化抑制効果が増強される。
- オメガ3は、感染症予防や転倒リスクの低減にも関連している可能性がある。
今回の論文では不明確なこと
- ビタミンD単独や運動単独では、生物学的老化に対する明確な効果が認められなかった。
- 長期間(3年以上)の介入効果や、寿命への影響は不明である。
- 個々の臓器や特定の病気への影響は、この研究のDNAメチル化クロックでは特定できなかった。
- 効果に個人差があり、特にオメガ3の影響はベースラインの栄養状態に依存する可能性がある(血中オメガ3が低い人ほど影響が大きい)。
結論
この研究は、オメガ3がDNAメチル化クロックを介して生物学的老化をわずかに遅らせる可能性があることを示されました。また、オメガ3、ビタミンD、運動の併用により、PhenoAgeにおいて老化抑制効果が強化されることが示唆されました。一方で、ビタミンDや運動単独では明確な影響は確認されなかった。これは個人的に意外でしたね。ビタミンDは様々な遺伝子に関わっているので。
今回の研究の結果は、加齢に伴う健康維持のためにオメガ3を摂取することの意義を示唆しており、将来的な個別化医療や栄養介入の可能性を開くものであるとのこと。しかし、長期的な影響や臓器ごとの効果については今後の研究が必要であると締められておりました。
オメガ3サプリメントは酸化されているものが多いと指摘されているんですが、一部のオメガ3サプリメントは酸化が少ないと判明しています。下に論文で酸化ダメージの少ないと確認されたサプリメントのリンクだけ置いておきます。