まあ、題名の通りなんですが、高脂肪食をしていると運動をしていても心機能に悪影響があるかもというラットの段階ですが論文があったので紹介します。(R)
ラットも人間も老化するプロセスに大きな違いはないのでラット研究だからとは安易に言えません。それでは詳しく見ていきましょう。
研究の目的
肥満の主な原因である高脂肪・高カロリー食は、心機能障害を引き起こすことが知られています。この論文の研究では、運動がこのような高脂肪・高カロリー食による心臓への悪影響を防ぐことができるのかを検証するため、異なる強度の運動(低・中・高強度)を高脂肪・高カロリー食を与えたマウスに実施し、その影響を解析したとのこと。
実験の概要
- 対象 : 遺伝的に標準的な性質を持つマウス(オス・メス)
- 条件 : 8週間、以下の4群に分けて飼育
- 通常食+運動なし
- 高脂肪・高カロリー食+運動なし
- 高脂肪・高カロリー食+中強度運動
- 高脂肪・高カロリー食+低強度または高強度運動
- 測定
- 体重・血糖値・血中脂質(中性脂肪・コレステロールなど)
- 心機能(心エコー・圧容量カテーテル測定)
- 心臓の脂質蓄積(組織染色・電子顕微鏡解析)
- 代謝変化(トランスクリプトーム・プロテオーム解析)
今回の論文で判明したこと
運動は体重増加を抑制し、肥満関連の代謝異常を改善した

- 高脂肪・高カロリー食を与えたマウスは体重増加や高血糖・高脂血症を示したが、中強度および高強度運動はこれらを抑制した。
- 特に高強度運動は、白色脂肪組織(WAT)や肝臓の脂肪蓄積を最も効果的に減少させた。
中・高強度運動は心機能を悪化させた

- 高脂肪・高カロリー食を与えたマウスは8週間後に心機能の低下を示し、中強度運動や高強度運動を行ったマウスでは、さらに心機能が悪化した。
- 左心室収縮・拡張機能の低下(LVEF, LVFSの低下)、心肥大(心筋細胞サイズ増大)、線維化の増加が認められた。(繊維化は組織が固くなりシワのようになることですね)
中・高強度運動は心臓の脂質蓄積を促進した
- 中強度運動や高強度運動を行った高脂肪・高カロリー食マウスでは、心筋内の中性脂肪やジグリセリド、セラミドの増加が観察された。
- 電子顕微鏡解析では、心筋細胞内の脂肪滴が増加し、異常蓄積が進行していた。
(脂肪滴とは、細胞の中に蓄えられる脂肪の小さな粒みたいなものです。細胞はエネルギーを必要とするときに脂肪を分解して使いますが、使われなかった脂肪は細胞の中で「脂肪滴」として蓄えられます。特に脂肪細胞に多く見られますが、異常な場合には筋肉や心臓の細胞にも蓄積することがあり、これが問題となることがあります。)
(ジグリセリドは、脂肪の中間的な形をした物質です。中性脂肪はトリグリセリドとして体に蓄えられます。しかし、脂肪が分解される途中で、脂肪酸が1つ外れた状態のジグリセリドになります。)
(セラミドは、細胞の膜の一部を構成する脂肪の一種です。セラミドは皮膚の保湿成分として知られていますが、この研究では心筋細胞にセラミドが増加するとインスリンの働きが悪くなることがあり、糖尿病や代謝異常に関連していると考えられています。)
脂質の体内分布が変化し、心臓への脂質移動が増加
- 中強度運動や高強度運動を行った高脂肪・高カロリー食マウスでは、脂質の代謝経路が変化し、脂肪組織や肝臓から心臓への脂質供給が増加した。
- これにより、心臓が過剰な脂質を取り込み、脂肪毒性(lipotoxicity)による心機能障害が進行した。
脂肪酸の酸化能力が低下し、ミトコンドリア機能が障害された
- 通常の食事では運動が心臓の脂肪酸酸化能力を高めたが、高脂肪・高カロリー食を与えたマウスでは中強度運動や高強度運動によって脂肪酸酸化が低下した。
- ミトコンドリアの電子伝達系(複合体I, IV)の活性が低下し、ATP産生能が落ちていた。
- ミトコンドリアの形態異常(クリステ構造の崩壊)が進行し、エネルギー代謝の低下を示唆していた。
(ミトコンドリアは細胞の「発電所」であり、心臓のエネルギー供給に重要な役割を持ちます。ミトコンドリアの機能が低下すると、心臓が十分なエネルギーを作れなくなり、動きが弱くなります。すると、脂肪の処理がうまくいかず、心臓に脂肪が異常に蓄積します。そして、活性酸素の増加によって心筋細胞がダメージを受け、細胞の死(アポトーシス)が促進されます。結果として、心機能が低下し、心不全や動脈硬化のリスクが高まるとのこと。因みに脂肪酸の酸化能力とは、脂肪をエネルギーとして利用するために、細胞の中で脂肪酸を分解する能力のことですね。脂肪は蓄積し過ぎると脂肪毒性(lipotoxicity)という単体で毒性を持つのであまり蓄積しすぎない方が良いんですよね。逆に褐色脂肪細胞という良い側面を持った脂肪もありますが。)
低強度運動は心臓に有益な効果を示した

- 低強度運動は高脂肪・高カロリー食による心機能障害を改善し、心筋への脂質蓄積を抑えた。
- また、心臓の脂肪酸酸化能力を維持し、ミトコンドリア機能も維持されていた。
メスのマウスでは心機能障害の進行が遅れた
- メスの高脂肪・高カロリー食マウスでは、中強度運動による心機能障害の進行がオスの高脂肪・高カロリー食マウスより遅かった。
- これは性差によるホルモンの影響が関与している可能性がある。
今回の研究の不明確な点
ヒトへの適用可能性
- 研究はマウスモデルを用いたものであり、ヒトでも同様の効果があるかは不明。
- 特に、ヒトにおける運動の強度と心機能への影響を検証する必要がある。
長期間の影響
- 研究は8週間の短期間で行われたため、長期間の影響(例えば、心血管疾患リスクの変化)については不明。
他の運動様式の影響
- この研究ではランニングによる有酸素運動を用いたが、レジスタンストレーニング(筋トレなどの無酸素運動)など他の運動形式が心機能に与える影響は検討されていない。
結論
今回の研究結果から、高脂肪・高カロリー食を摂取している場合、中・高強度の運動は体重管理には有効だが、心臓に悪影響を及ぼす可能性があることが分かりました。一方、低強度運動は心機能を保護する効果を示しました。
高脂肪・高カロリー食を摂取している人が運動を行う場合、運動強度の選択が重要であり、過度な運動は心臓に悪影響を及ぼす可能性があるので、低強度運動の実施から始めるのが良さそうです。まあ、最初から高強度の運動から始めるのは膝への負担も心配ですが、継続が大変そうです。
ヒトにおける検証や、運動の長期的な影響の研究が待たれるところですが、高脂肪や高カロリーの食べ物は程々にした方が良さそうです。