【百薬ではない】アルコールを摂取するとコレステロール値が改善するけどおすすめ出来ない件

題名の通りですが、アルコールを摂取するとコレステロール値が一時的に改善するという論文がありました。(R)まとめる予定がなかったのですが、友達からリクエストがあったのでまとめてみました。後でも記述しますが、アルコールはデメリットの方が多いのでほどほどにした方がよろしいかと。お酒とは適切な距離感を見つけるのが長く付き合うコツとも思います。それでは確認していきましょう。

目次

研究の目的と背景

お酒(アルコール)の健康への影響については、昔からさまざまな意見があります。一部の研究では、少量のお酒は「善玉コレステロール(HDL)」を増やし、「動脈硬化」を予防すると言われていましたが、近年は「どんな量でも健康に良くない」という声が強まっています。

とはいえ、「実際にお酒をやめたら血液中の脂質(コレステロール)はどう変わるのか?」という疑問には、明確な答えが出ていませんでした。特に、日常生活の中で自然にお酒をやめたり始めたりした人の体で、脂質がどう変化するのかについては、これまで十分に調べられていませんでした。

この研究は、「お酒を始めること・やめること」が、悪玉コレステロール(LDL)と善玉コレステロール(HDL)にどんな影響を与えるかを明らかにするために行われました。

研究の方法

対象者

2012年~2022年の10年間にわたり、東京の聖路加国際病院で年に1回の健康診断を受けた57,691人が対象です。合計で約32万回の健診データが使用されました。

  • 年齢:平均46.8歳
  • 女性:53%
  • 脂質を下げる薬を飲んでいる人は除外

分析した2つのグループ

  1. 飲酒を始めた人(=お酒を全く飲まなかったのに、次の年から飲むようになった)
  2. 飲酒をやめた人(=お酒を習慣的に飲んでいたが、次の年にはやめた)

測定した項目

  • LDL(悪玉コレステロール)
  • HDL(善玉コレステロール)

1回目と2回目の健診でこの2つの値がどう変わったかを分析しました。

LDLコレステロールとHDLコレステロールの違いとは?

この論文では、血液中のコレステロールに関して、2つの指標が主に使われています:

  • LDLコレステロール(Low-Density Lipoprotein Cholesterol)
  • HDLコレステロール(High-Density Lipoprotein Cholesterol)

それぞれ、体内での働きが異なるため、「悪玉」「善玉」という呼び名が使われることがあります。

LDLコレステロール(悪玉コレステロール)

  • 体内のコレステロールを血管に運ぶ役割をしています。
  • ただし、運ばれすぎると血管の内側にコレステロールがたまり、動脈硬化の原因になります。
  • このため、「悪玉コレステロール」と呼ばれています。

HDLコレステロール(善玉コレステロール)

  • 血管の中にたまった余分なコレステロールを回収して、肝臓に戻す役割をしています。
  • このため、「善玉コレステロール」と呼ばれます。
  • HDLが高いほど、動脈硬化のリスクが低くなるとされています。
項目LDL(悪玉)コレステロールHDL(善玉)コレステロール
働きコレステロールを血管に運ぶコレステロールを回収し肝臓へ戻す
多いと?動脈硬化・心疾患リスク↑動脈硬化リスク↓(予防的)
飲酒の影響飲酒で減少/禁酒で増加飲酒で増加/禁酒で減少

最近ではどちらも必要なものである為、善玉、悪玉といった単調な呼び方はあまりされなくなっています。個人的にも善玉、悪玉は語弊がある呼び名なので好きではありません。

この研究では、実際の生活の中で起きた「飲酒の開始・中止」が、LDLとHDLにどう影響したかを明確に示しています。その結果、善玉・悪玉のバランスが、お酒の量に応じて変わることが明らかになりました。

ただし、コレステロールの改善=健康とは限らず、飲酒による他のリスクにも注意する必要があるという結論が付け加えられています。

結果

飲酒を始めた人の変化(アルコール開始)

お酒を飲み始めた人は、飲む量が多いほど以下のような変化が見られました

  • LDL(悪玉)コレステロールが減少
  • HDL(善玉)コレステロールが増加

具体的な数値は以下の通りです

飲酒量LDLの変化HDLの変化
1.5杯未満/日−0.85 mg/dL+0.58 mg/dL
1.5〜3.0杯/日−4.40 mg/dL+2.49 mg/dL
3.0杯以上/日−7.44 mg/dL+6.12 mg/dL

つまり、「お酒を飲み始めるとコレステロールの数値が改善する」という結果です。

飲酒をやめた人の変化(アルコール中止)

お酒をやめた人では、逆の変化が見られました

  • LDL(悪玉)コレステロールが増加
  • HDL(善玉)コレステロールが減少

数値は以下のとおり:

飲酒中止前の量LDLの変化HDLの変化
1.5杯未満/日+1.10 mg/dL−1.25 mg/dL
1.5〜3.0杯/日+3.71 mg/dL−3.35 mg/dL
3.0杯以上/日+6.53 mg/dL−5.65 mg/dL

つまり、「お酒をやめるとコレステロールの数値が悪化する」という結果でした。

飲み物の種類に関係あるか?

ビール・ワイン・焼酎・ウイスキーなど、どの種類のお酒を飲んでも、ほぼ同じ傾向(LDL↓、HDL↑)が見られたため、お酒の種類はあまり関係なく、主に「アルコールの量」が影響していると考えられます。

誰に影響が出やすい?

  • 女性
  • BMI(体格指数)が低い人
  • もともとHDLが高かった人

これらの人たちは、飲酒の影響をより強く受けていました。たとえば、女性が飲酒を始めるとHDLの増加幅が大きく、やめると減少が顕著でした。

判明した確かなこと

この研究から確実に言えるのは以下の点です:

  • アルコール摂取量の増減は、血液中のコレステロールに有意な変化をもたらす
  • 飲酒を始めると、LDLが減り、HDLが増える(量が多いほど効果大)
  • 飲酒をやめると、LDLが増え、HDLが減る(量が多いほど悪化)
  • 飲むお酒の種類には影響されにくい(共通の傾向がある)
  • これらの変化は1年後の健康診断という実生活の中で観察されたものである

判明しなかった不明な点

  1. 飲酒による長期的な「病気発症率(心筋梗塞、脳卒中など)」の変化は調べていない
     → 本研究では、あくまで「数値(コレステロール)」の変化を見ただけとも言える。アルコールは肝臓ガンなどのリスクを上げる事が判明しています。アルコールを代謝した際に生じるアセトアルデヒドに発がん性があるんですよね
  2. 飲酒と同時に変化した他の生活習慣の影響を完全には除外できていない
     → 例えば、禁酒と同時に運動を始めたり、食事内容が変わった可能性もあるため、アルコールだけの影響とは言い切れない面がある。まあ、これに関しては6万人近い人数でデータを取っているので杞憂かと
  3. アルコールを「どれくらいの期間やめたか」は細かく分析されていない
     → 一時的な禁酒なのか、長期的な断酒なのかで結果が違う可能性もある。まあ、アルコールのメリットとデメリットを健康の面で天秤に掛けたらデメリットが上回るかと
  4. 自己申告による飲酒量の信頼性に限界がある
     → 飲んだ量や頻度は自分で記入する形式なので、過小申告の可能性も否定できない可能性。まあこれも6万人近い人数でデータを取っているので杞憂かと

研究の意義と注意点

この研究は、非常に多くの実生活データを使って、「お酒とコレステロールの関係」を明らかにした貴重な研究です。特に、お酒をやめたことによる脂質の悪化という点は、多くの人にとって意外かもしれません。

お酒をやめると一時的に「コレステロールの数値が悪化する」可能性があることが明らかになりました。

とはいえ、著者らはこのように注意しています:

「LDLの数値が5 mg/dL上がるだけでも、心臓病のリスクが2~3%高まるという報告があるが、それ以上にアルコールには高血圧や不整脈、がんのリスクがあるため、お酒を勧めるものではない」

「コレステロール値だけが健康のすべて」ではありません。この論文の執筆者も仰っていますが、お酒は以下のような健康リスクとも深く関係しています:

  • 高血圧
  • 肝臓病
  • がん
  • 心房細動などの不整脈

したがって、「コレステロールが良くなるからお酒を飲んだ方がいい」という短絡的な判断は避けるべきです。むしろ、禁酒後には脂質管理をしっかり行うことが重要であるというのが、この研究の一番のメッセージです。

結論

この研究は、「飲酒の開始や中止が、どのようにコレステロールに影響するか」を実証的に示したものであり、次のような結論に至りました。

  • 飲酒開始:コレステロールにはプラスの変化
  • 飲酒中止:コレステロールにはマイナスの変化
  • ただし、全体の健康にはお酒はリスクが高いため、慎重な判断が必要

この研究は、日本人を対象にした大規模で長期的な実データに基づき、飲酒の開始や中止がコレステロールに与える影響を明らかにしたものです。結果として、お酒をやめることでHDLコレステロール(善玉)が下がりLDLコレステロール(悪玉)が上がる可能性があるため、「飲酒をやめれば健康になる」と単純に考えるのではなく、血液検査などで脂質の変化を定期的にチェックすることが重要だと示されました。

おただし、全体的な健康リスクから考えると、飲酒を勧める結果ではありません。禁酒後の健康管理をしっかり行うことが、生活習慣病の予防や健康維持に役立つという点が、本研究の最大のポイントです。個人的には節度を持ってお酒を嗜みたいですね。

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