肝臓がん(特に原発性肝がん)は、世界で6番目に多いがんであり、がん死亡原因の中で3位を占める深刻な疾患です。その主なリスク因子には、B型およびC型肝炎ウイルス(HBV/HCV)感染、過度な飲酒、喫煙、非アルコール性脂肪肝疾患(NAFLD)、肥満、糖尿病などが含まれます。
今回は一部の脂質異常症の医薬品が肝臓癌リスクを下げるという面白い論文があったので紹介します。(R)
近年、特定の薬剤による予防医療が肝臓がんのリスクを低減する可能性が注目されています。特に、スタチン(コレステロールを下げる薬)が肝臓がんリスクを減少させることが示されており、心血管疾患の治療だけでなく、がん予防への応用が期待されています。しかし、スタチン以外のコレステロール低下薬(コレステロール吸収阻害薬、陰イオン交換樹脂、フィブラート、ナイアシン、オメガ3脂肪酸)については十分な研究が行われていませんでした。
そこで、本研究ではスタチンを含む6種類のコレステロール低下薬と肝臓がんの発症リスクの関係を調査したんですね。
研究目的
この研究は、以下の2つの目的で実施されました。
- スタチン以外のコレステロール低下薬(コレステロール吸収阻害薬、陰イオン交換樹脂、フィブラート、ナイアシン、オメガ3脂肪酸)が肝臓がんのリスクにどのような影響を与えるのかを明らかにする。
- スタチンの肝臓がん予防効果を再確認し、他の薬剤と比較する。
研究方法
- データソース: 英国の大規模医療データベース(Clinical Practice Research Datalink; CPRD)。
- 対象者: 1988~2019年に記録された10~90歳の患者。肝臓がんを発症した3,719人と、それに対応する14,876人の対照群を選定。
調査内容
- 対象者が6種類のコレステロール低下薬を使用していたかどうかを確認。
- 服用状況(現在使用中・過去に使用・未使用)、使用頻度、投与量を分析。
- 肝臓がんリスクとの関連を調査。
統計解析
- 条件付きロジスティック回帰分析を用いて、オッズ比(OR)と95%信頼区間(CI)を算出。
- データは、年齢、性別、体重、喫煙歴、飲酒関連障害、糖尿病、肝炎ウイルス感染などの影響を考慮して調整。
結果
肝臓がんのリスクを低下させた薬剤
コレステロール吸収阻害薬(例:エゼチミブ)
- 肝臓がんリスクを31%低下(調整後OR 0.69; 95% CI 0.50–0.95)。
- 特に過去に使用していた人でリスクが顕著に低下(OR 0.52; 95% CI 0.33–0.83)。
- 糖尿病や慢性肝疾患の有無にかかわらず、予防効果が確認された。
スタチン
- 肝臓がんリスクを35%低下(調整後OR 0.65; 95% CI 0.58–0.74)。
- 現在使用している人では特にリスク低下が顕著(OR 0.61; 95% CI 0.54–0.69)。
- 糖尿病や慢性肝疾患のある患者でも予防効果が確認された。
肝臓がんのリスクを増加させた薬剤
陰イオン交換樹脂(例:コレスチラミン)
- 肝臓がんリスクが5倍以上増加(調整後OR 5.31; 95% CI 3.54–7.97)。
- 現在使用中の人ではリスクが13倍以上(OR 13.08; 95% CI 6.98–24.49)。
- 慢性肝疾患のない人で特にリスク増加が顕著。
- ただし、この薬自体がリスクを増加させるのか、それを必要とする基礎疾患が関与しているのかは不明。
リスクに影響を与えなかった薬剤
フィブラート(例:フェノフィブラート)
- 肝臓がんリスクとの明確な関連は見られなかった(OR 1.12; 95% CI 0.83–1.50)。
ナイアシン(ビタミンB3)
- 使用者が少なく、統計的に有意な結果は得られなかった(OR 2.07; 95% CI 0.59–7.20)。
オメガ3脂肪酸
- 肝臓がんリスクとの関連は確認されなかった(OR 0.86; 95% CI 0.47–1.58)。
論文内での考察
予防効果のある薬剤について
- コレステロール吸収阻害薬は、肝臓内のコレステロール代謝を調節し、がん化を抑制する可能性がある。
- スタチンは、コレステロール低下以外にも、がん細胞の増殖に必要な因子を減少させる働きがあると考えられる。
リスク増加の原因
- 陰イオン交換樹脂は、肝臓の負担を増加させる可能性があり、それががんのリスクを高める可能性がある。
- ただし、薬自体が原因なのか、それを必要とする基礎疾患の影響なのかは明確ではない。
結論
本研究は、コレステロール吸収阻害薬とスタチンが肝臓がんリスクを低下させる可能性を示しました。一方で、陰イオン交換樹脂はリスクを増加させる結果となりました。しかし、これは観察研究であり、因果関係を証明したものではありません。今後、さらなる研究が必要であり、この論文は陰イオン交換樹脂のリスクを示したものであり、必ず癌化するという事を示した訳ではないです。処方してもらっている方は医師の処方に従ってください。
あとがき
個人的に老化対策で脂質異常症の医薬品を取るのはしていないですし、他人にも勧めないですね。
スタチンは他にも老化にアプローチ出来るかもしれないと言われているのですがスタチンはミオパチーという筋肉が血中に溶けてしまう副作用が稀に発生するんですね。血液検査を定期的に確認出来る環境にないといけないですし、あったとしてもメリットとデメリットを比較したリスクリワードが悪いと判断しているので可能性に賭けたい派の自分でも飲もうとは思わないですね。
逆にエゼチミブなどのコレステロール吸収阻害薬はスタチンの様に重篤な副作用は起こりにくいのでリスクリワードが良いと思いました。血液中のコレステロールの約8割は肝臓で合成されており、食事から摂取されるのは約2割です。エゼチミブがコレステロールにアプローチ出来るのは2割の方なのに肝臓癌のリスクを下げるのは面白いと感じましたね。
個人的に肝臓癌リスクを下げると老化対策出来ると思う理由はこちら

そう言えば、Lifespanを書いた老化研究の第一人者であるDavid Sinclairは家族性高コレステロール血症の一次予防でスタチン取ってましたね。