今回は現時点でどのような医薬品や化合物が有力視されているのかをまとめた意見記事があったので見ていきたいと思います。(R)
意見論文は、専門的なテーマについて著者の考えや意見を述べる形式の論文です。単なる主張や感想ではなく、既に発表されている研究やデータをもとに議論を展開することです。この形式の論文は「既存の知識に基づいて、その分野での現状を問い直したり、新しい視点を提供したりすること」を目的としています。
簡単に言うと、意見論文は「このテーマについて、こんなふうに考え直したらどうだろう?」といった提案や批判を、根拠に基づいて説明する形式の論文です。
今回の論文は可能性に賭けてまで老化対策をしたい人にとって具体的にどうしたらいいかを知る手掛かりになると思います。
医薬品が病気のリスクを下げたとか論文に書いてあっても、医薬品を一次予防で摂取するのは副作用のリスクから他人にお勧めしません。
しかし、老化対策のヒントになると思います。個人的に老化のヒントになると思う理由はこちらからどうぞ

老化とラパマイシン:研究概要と発見
本論文は、mTOR(Mechanistic Target of Rapamycin)経路の阻害剤であるラパマイシン(Rapamycin)の寿命延長効果や老化関連疾患への影響を中心に、多様な動物モデルを用いた研究成果を報告しています。さらに、ラパマイシン以外の医薬品や化合物、生活習慣が老化防止に寄与する可能性についても議論されています。以下に、主要な結果とその考察をまとめましたので見ていきましょう。
ラパマイシンに関する判明したこと
寿命延長効果
- ラパマイシンは酵母、線虫、ショウジョウバエ、マウスなど幅広い種類の生物で寿命を延ばす効果が確認されています。
- 特に短寿命のマウスでは最大寿命が3倍延びるという劇的な効果が報告され、通常のマウスや他の動物でも寿命延長が示されています。
- ヒトを対象とした研究はまだ限られていますが、老化関連疾患(癌、神経変性疾患、動脈硬化など)を遅らせる可能性が示唆されています。
老化関連疾患の予防
- ラパマイシンは癌、動脈硬化、認知症などの進行を遅らせるとされ、健康寿命の延長に寄与することが期待されています。
- 高齢者や免疫が低下した人々においても、免疫機能の改善(免疫リジュビネーション)効果が報告されています。
副作用と管理
- 高用量のラパマイシン投与により、一部の動物モデルでインスリン抵抗性や軽度の高血糖(善性飢餓疑似糖尿病, SPD)が観察されましたが、これらは可逆的であるとされています。
- 低用量または間欠的投与により、副作用を抑えつつ効果を維持することが可能です。
- ヒトを対象とした短期研究では、重大な副作用はほとんど報告されていません。
他の薬剤との併用効果
- ラパマイシンは、メトホルミンやアスピリンなど他の薬剤と併用することで、副作用を軽減しつつ相乗効果を得られる可能性があります。
ラパマイシンに関する不明な点
ヒトへの長期的影響
- ヒトでの長期使用に関するデータが不足しており、安全性や最適な投与スケジュールの確立が必要です。
全てのモデル生物での再現性
- 動物モデルによって効果が異なり、一部では効果が見られないケースも報告されています。この理由は未解明です。
短期的な効果測定指標
- 老化防止効果を即座に評価するためのバイオマーカーは確立されていません。(老化を数値化するのは難しいのでなんとも言えないですが)

ラパマイシン以外の老化防止薬・化合物
ラパマイシン以外にも老化に対する効果が期待される以下の医薬品や化合物が挙げられています。
メトホルミン
- 糖尿病治療薬として広く使用され、寿命延長効果が動物モデルで確認されています。
- 抗炎症作用や癌予防効果が示唆されています。

アスピリン
- 抗炎症薬で、心血管疾患や一部の癌リスク(特に消化管癌)を低下させる効果があります。
ACE阻害剤・アンジオテンシン受容体拮抗薬
- 高血圧治療薬として使用されるこれらの薬剤は、動物モデルで寿命延長効果が観察されています。
PDE5阻害剤(シルデナフィル、タダラフィルなど)
- 勃起不全治療薬として知られるこれらの薬剤は、炎症抑制作用や一部の癌予防効果が報告されています。
リチウム
- 精神疾患治療薬として知られるリチウムは、神経保護作用を持ち、神経変性疾患の予防や老化抑制の可能性が示唆されています。
スタチン
- 脂質異常症治療薬で、動脈硬化の予防や抗炎症作用を持つため、老化関連疾患の予防に寄与するとされています。
次世代mTOR阻害薬(Rapalogs)
- ラパマイシンの副作用を抑えつつ、寿命延長効果を持つ新たなmTOR阻害薬の開発が進められています。
食事療法や生活習慣
今回の論文は食事療法や生活習慣が老化防止に寄与する可能性についても言及されています。
カロリー制限(Calorie Restriction, CR)
- カロリー摂取を減らすことでmTOR経路を抑制し、老化を遅らせる効果があります。
- ただし、老齢期に開始した場合の効果は限定的です。
断続的断食(Intermittent Fasting, IF)
- 食事間隔を長くする断続的断食は、代謝改善や寿命延長効果をもたらす可能性があります。
運動
- ラパマイシンの脂肪燃焼促進効果と組み合わせることで、筋力維持や老化防止効果を高められる可能性があります。
ケトン食療法(Ketogenic Diet)
- 飢餓状態を模倣する食事療法で、寿命延長や認知機能改善に寄与する可能性があります。
結論
ラパマイシンは、mTOR経路を介して老化関連疾患を遅らせ、寿命を延ばす可能性を持つ重要な医薬品です。さらに、メトホルミンやリチウム、アスピリンなど他の医薬品や化合物を組み合わせることで、老化防止効果を最大化できる可能性があります。これに加え、カロリー制限や断続的断食、ケトン食療法などの食事療法や生活習慣の改善も重要な役割を果たします。
一方で、ヒトへの長期的な安全性データの不足や、老化防止効果を測定する指標の確立が必要であり、これらの課題を解決することで、老化研究と実用化がさらに進展することが期待されます。
今回の論文はアンチエイジングに有望な医薬品をまとめてたものです。気になる点があるとすれば同じ作用機序で老化にアプローチしている可能性があるという点です。分かりやすいところで言うと、ACE阻害薬やアスピリンは血中のリチウムの濃度が上昇する事が判明しています。つまりは同じような生体内の仕組みで老化に関与している可能性があるわけですね。今回示された論文はその点が明記されていないのでなんとも言えないですが、これからの研究に期待したいですね。
老化に対して作用機序が明確になっている医薬品や化合物はこちらからどうぞ

あとがき
ラパマイシンは副作用があるため第2世代mTOR阻害薬としてエベロリムスというものが開発されたんですね。mTORにはmTORC1とmTORC2の2種類があるですが、エベロリムスはmTORC1のみ阻害します。ラパマイシンはmTORC1を基本的に阻害するんですが、長期的に摂るとmTORC2も阻害してしまいます。老化対策という側面からmTORC2を阻害した方が良いのか悪いのか判明してないのでエベロリムスとラパマイシンではどちらが優位なのかなんとも言えないところです。また、エベロリムスを開発したノバルティスという製薬会社がエベロリムスの次を開発しているんですが、あんまり上手くいっていないっぽいんですよね。なので、ラパマイシン系のmTOR阻害薬のアンチエイジングは道のりとしては長いと言えそうですね。
個人的にはノバルティスの株主でもあるので、次世代mTOR阻害薬の開発を頑張って欲しいと思い、陰ながら見守っています。