老化の波は44歳と60歳に訪れる : 老化に伴う分子レベルの変化とその対策

老化は徐々に進むのではなくて、段階的に急に進む時期があるという興味深い論文がありました。(R)

日本でも様々なメディアで取り上げられていたので知っている方も多いと思います。詳しく見ていきましょう。

目次

実験概要

この研究では、老化に伴う分子レベルでの変化を明らかにするため、アメリカ・カリフォルニア州在住の25歳から75歳の108名を対象に、長期的なマルチオミクス解析を実施しました。研究期間の中央値は1.7年(最長6.8年)で、各参加者から血液、糞便、皮膚、口腔、鼻腔のサンプルを3~6か月間隔で採取しました。解析には、トランスクリプトミクス(遺伝子発現)、プロテオミクス(タンパク質解析)、メタボロミクス(代謝物解析)、リピドミクス(脂質解析)、サイトカイン解析、微生物叢解析など10種類のデータが用いられ、計135,239の生物学的特徴が取得されました。

判明したこと

全体の老化パターン

  • 分子や微生物の変化は主に非線形的であり、老化が一定の速度で進むのではなく、特定の年齢(約44歳と約60歳)で急激な変化が生じることが分かりました。(上のグラフの通り急激に変化している時期があるという事です。)
  • これらの転換点は、老化関連疾患(心血管疾患や糖尿病など)のリスクが急増する時期と一致します。

44歳前後での変化

  • 主要な変化: 心血管疾患リスク、脂質代謝、アルコール代謝に関連する分子経路の変化が顕著でした。
  • 心血管疾患: 脂質代謝が乱れ、動脈硬化のリスクが上昇。
  • 脂質代謝: 不飽和脂肪酸の合成経路が減少し、心血管疾患のリスク増加が示唆されました。
  • アルコール代謝: アルコール代謝に関連する酵素活性が低下し、代謝効率が落ちることが確認されました。
  • 腸内細菌の変化: 腸内微生物の多様性がこの時期に減少し、特定の代謝物産生に影響を及ぼしました。例えば、脂肪酸を生成する細菌が減少し、代謝と免疫に悪影響を与える可能性が示されました。

60歳前後での変化

  • 主要な変化: 免疫調節、糖質代謝、腎機能に関連する分子経路が大きく変化。
  • 免疫系の変化: 酸化ストレス関連分子(抗酸化活性、酸素結合、ペルオキシダーゼ活性)の増加が確認され、炎症の進行と免疫力の低下が見られました。
  • 糖質代謝: 血中グルコース濃度の上昇が観察され、2型糖尿病(T2D)のリスクが顕著に増加しました。
  • 腎機能の低下: 尿素窒素濃度の上昇が確認され、腎臓の機能低下が始まる時期と一致しました。
  • 腸内細菌の変化: 炎症性疾患に関連する細菌が増加し、腸内環境のバランスが崩れる傾向が観察されました。特に、短鎖脂肪酸(SCFA)産生に寄与する菌が減少し、腸の健康が損なわれる可能性が示されました。

老化に伴う分子パターンの波

  • 老化に伴う分子変化は、40代後半60代前半でそれぞれピークを持つ波状パターンを示しました。これにより、老化は単調に進むのではなく、特定の時期に急速な変化が起こることが明らかになりました。
  • 特に60歳を超えると心血管疾患、糖尿病、腎疾患のリスクが非線形的に増加します。

不明な点

  • 老化に伴う分子変化と疾患発症との直接的な因果関係については未解明の部分が多く残されています。
  • 腸内細菌の変化が全身の老化にどの程度寄与するのか、また腸内細菌の調節が老化を遅らせる可能性についての具体的なメカニズムは明らかにされていません。
  • 特定の分子経路(例えばエピジェネティクスの変化やDNA修復能力の低下)がどのように老化全体を制御しているのかについての詳細な研究は、さらなるデータと実験が必要です。

結論

老化とは、私たちの体内の分子や細胞が変化していく過程です。この研究では、老化が直線的に進むのではなく、40代後半と60代前半で急激な変化が起きることが分かりました。44歳前後では心臓病や代謝の問題が増え、60歳前後では免疫力の低下や糖尿病、腎機能の低下が目立ちます。また、腸内細菌のバランスも崩れ、健康維持が難しくなる時期があることが示されています。この発見は、病気の予防や健康寿命の延伸に役立つ可能性があります。

今回示された代謝機能の変化にアプローチ出来そうな生活習慣や予防医療を提示した医学論文があると思うので他の記事で紹介したいと思います。

個人的にはメタボリックドミノで示された理論と似たような変化が分子レベルで観察されていたのは面白いと感じました。では今回はこの辺で。

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